老犬の春 2004 7 2
ある方から、このような話を聞きました。
冬の寒い日、ある家に、年老いた犬がいた。
老犬をいたわる飼い主を見て、ある方は子犬を与えた。
飼い主は、老犬の家の隣に、子犬用の家を建てた。
老犬は、飼い主の愛情が子犬に移ることに不安と悲しみを感じた。
老犬は、元気に動き回る子犬を見て、自らの衰えと、
自らの死が近いことを悟ることになった。
子犬は、決して自分の家に入ることなく、老犬と一緒に寝た。
老犬は、子犬から伝わってくる暖かさで、生命の暖かさを知り、
同時に、厳しい冬の寒さをしのげると知って、
なぜ子犬が来たのかを知ることになった。
老犬は、子犬に対して持った嫉妬とも思える感情が、
いかに愚かなことかを知る。
春うららかな日、元気に、はしゃぐ子犬。
死んだかのように見えた木々が、次々と花を咲かせる。
力強い生命の躍動が春を知らせるが、
老犬には、死を知らせることになる。
だんだんと気持ちが消えいく。
そして見えなくなっていく。
春の日差しを受けて、暖かくなっていく大地。
暖かい大地が、老犬の体を温めても、それは、むなしい。
老犬の体は、ゆっくりと、しかし確実に冷たくなっていく。
子犬は、老犬の最後を見て、やっと自分の家に住む時が来たことを知る。
犬は、あなたより後から来て、先に行く。
「なぜ」と問う前に、そこに意志が働いていることに気づくべきです。
人間に最も身近な動物、犬の役割に気づかなくてはならない。
犬を通して、人間に何を知らせているかを知るべきです。